熊野市二木島町・二木島里町第4回津波避難計画を実施
地域住民による防災の取り組みが進む熊野市。熊野灘に面し複雑に入り組んだリアス式の海岸が続く、同市内の隣接した二木島町と二木島里町で3月15日、住民一人ひとりが考えて行動するための津波避難計画を作成する第4回の検討会が開かれた。同市の呼びかけによって、昨年6月から始まった地域の津波避難計画づくり。最終となった今回は、地震によって津波が発生することを想定した避難訓練が実施され、参加者は訓練でできたこと、できなかったことについて意見をまとめ、今後の課題をあげて話し合った。防災への意識を高めた住民は、今後も行政や専門家の協力を得ながら避難計画の確認と見直しを継続的に行っていく。
訓練で避難経路を体感
二木島町と二木島里町で実施された初の本格的な津波避難訓練は、午前9時半に始まった。その少し前より、同市の防災対策推進課による訓練実施の案内が、町内放送で繰り返し流される。定刻になるとサイレンが断続的に鳴り、人家が密集する町のなかに響きわたった。
高台に点在する津波避難場所の一つ、二木島町にある旧荒坂中学校。サイレンが流れて数分が経つと、続々と人びとが集まってきた。海と山にかこまれた集落のなかは、ゆるやかな傾斜だが、学校の門にたどり着くまでの最後の道のりは、急な勾配が長く続く。これまでも津波の避難訓練は行われてきたが、足の弱い高齢者が多いため、避難する先はのぼり坂の手前あたりまで。訓練でここまであがったのは初めてだという。
避難訓練に参加した住民のほとんどは高齢者。「この坂をあがる練習をしないと」、「急な坂は階段になっていない。足が悪いから雨だと滑って大変」、「手すりがないと年寄りは登れない」。実際の避難経路を体感した人びとからは、さまざまな感想が聞かれた。
浸透する黄色いハンカチ作戦
避難訓練の開始から10分後には、旧荒坂中学校を避難場所にしている周辺住民の多くが到着。高台から眼下に広がる集落をながめながら、今回とった避難行動について振り返った。訓練を終えた住民は、全員で津波避難計画について話し合うため、今来た坂道を再びくだり、二木島町の中心にある公民館へと移動した。同課によると、避難訓練に参加した住民は約80人。自分の命を守るため、各自が避難の経路や場所を考えて作成した一人ひとりの津波避難計画「Myまっぷラン」にもとづいて避難したという。
公民館に向かう途中、集落のいたるところで視界に飛び込んできたのが、家の玄関先や物干し竿など、目のつきやすいところに掲げられていた黄色いハンカチやタオル。同課の担当職員によると「ちゃんと避難したという目印」になることから、使用を呼びかけているという。災害時の安否確認がスムーズにでき、迅速な救助活動につながるこの取り組みは「黄色いハンカチ作戦」と呼ばれ、静岡県富士宮市で平成20年度に始まってから、全国の自治体で導入する動きが広がっている。
住民と相談しながら課題に対応
避難訓練に参加した二木島町と二木島里町の住民約40人が公民館に集まり、これまで検討を重ねてきた津波避難計画の振り返りとこの日に行われた避難訓練の評価、今後の取り組みについての話し合いが、午前10時より始まった。昨年6月に開かれた津波避難計画の第1回の検討会から、参加した住民はタウンウォッチングを実施。津波からの避難経路を確認したり、避難時における危険箇所をみんなで共有するマップをつくったりして、一人ひとりが「Myまっぷラン」を作成し、地域の津波避難計画について議論を継続してきた。
発表した住民からは、避難訓練について「スムーズにできた」といった発言が多く聞かれたが、その一方で「夜間の避難は難しい」、「避難経路が崩れたらどうするのか」、「高齢化が進んで避難できない人がたくさんでてくる」、「隣近所への声かけができなかった」などの意見もあり、課題が浮かびあがった。また「食料はどのようなものを備蓄しておけばよいのか」、「避難場所での生活をどのようにするのか」といった質問も寄せられ、引き続き同課のほうで検討を進めて、住民と相談しながら対応を図っていくこととなった。
同市では今後、両町を対象にした避難所運営マニュアルの作成に取り組む考え。平成27年度には「逃げ足鍛えて命を守ろう」をキャッチフレーズに、高齢者が自力で避難できるようゴムバンドで足腰をきたえる健康体操の教室を定期的に開く他、白いハンカチを家の前に掲げて、自宅内で安全に避難していることを周囲に知らせる「白いハンカチ作戦」も展開していく予定だ。
絶対にあきらめない
これまでの話し合いを受けて、最後に講評した三重大学大学院工学研究科地域圏防災・減災研究センターの川口淳准教授は、津波避難の3原則である、①決してあきらめず、最善を尽くす、②想定を信じるな、③率先避難者たれ─を参加者に呼びかけた。さらに過去の教訓を生かすには、耐震補強・家具の固定といった住宅の安全性の強化や、一人ひとりが避難計画を立案して訓練を行い、地域全体の避難計画とすりあわせながら課題をみんなで共有し、行政と調整して解決を図っていくことが大切であると指摘。「災害は想定どおりには来ない。臨機応変に自分で対応する能力が必要です。絶対あきらめてはいけません。一人ひとりが強い意思をもって、この計画が役立つよう定期的に訓練と話し合いを続けてください」などと話した。大きな地震が発生し、両町を津波がおそうことを想定した映像も流され、参加した住民は関心をもって見入った。
最後に同市防災対策推進課の山本方秀課長が「一年間ありがとうございました。最終の訓練ということで、これまで行ってきた話し合いは最後になりますが、この取り組みは今日からがスタートです。これからどんどん広げてください」と話し、約2時間にわたり行われたこの日の検討会は終了した。
検討会の第1回から出席してきた二木島町自主防災会の下地通有会長は「最初の頃は、大きな津波がきたら逃げられないから死んでもいいという人が多かった。最近は、みんなで生き延びるんだというふうに、防災に対する意識が高まってきた。まだ一部の人たちしか動けていないので、防災会の強化と住民への意識づけを継続して行っていきたい」と、これまでの取り組みを振り返り、今後の抱負について語った。